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    『Neon White』から見る“傑作ゲームの条件” ── あるいは、「おもしろさの再解釈」から生まれる興奮

    Angel Matrixが開発したインディーゲーム『Neon White』を遊び、衝撃を受けた。このゲームは「おもしろさの再解釈」が優れている、と。

    『Neon White』は主観視点のスピードラン系アクションゲームである。二段ジャンプやダッシュなどさまざまなアビリティを持った銃のカードを使いこなし、いかに短いタイムでゴールできるか競うゲームとなっている。

    タイムを競って素早くクリアするようなゲームは本作以外にもいろいろと例があるものの、どうしてもニッチな遊びになってしまう。しかし、『Neon White』はそれを気軽に楽しく遊ばせる構造が見事なのである。

    そして本作を遊んでいると、傑作と呼ばれうるようなゲームは「おもしろさの再解釈」が非常に優れているのではないか、という考えにたどり着く。

    『Neon White』の極めて優れたプレイヤー誘導

    スピードランはタイムを競うため、同じステージを何度も遊ぶことになり飽きやすい。かつ、プレイヤーは「タイムを短くする」という大まかな目標しか与えられないため、素早くクリアする動機が少なく、ゆえにニッチな遊びになりやすい。フレンドがいればランキングで争えるが、しかしちょうどいい相手が必要となる。

    『Neon White』はこの問題を解決しようとさまざまな目標を仕込んでいる。本作でひとつのステージをプレイする場合、だいたい以下のような流れになる。

    • まずステージをクリア
    • 次にプレゼントを探す
    • メインストーリー進展のため、高い評価を目指す
    • すると、最高評価を得られるようなヒントが出現する

    プレゼントは仲間にあげられる収集品で、ステージのどこかに隠されている。それをじっくり探すことによってステージへの理解度も深まり、結果的によりよいタイムを出しやすくなる。また、サブクエストの進展のためにもプレゼントは必要なので、つい集めたくなる作りになっているわけだ。

    そして、メインストーリーを進めるためにはそれなりの評価を得る必要があり、自然と高い評価を狙うようになる(とはいえ、条件はそこまで厳しいわけではない)。

    そのメインストーリーもなかなか引きのある作りだ。主人公のネオン・ホワイトは地獄に落ちた暗殺者なのだが、天国で永住する権利を得るため半ば強制的に悪魔狩りに参加させられる。しかし、ホワイトは生前の記憶を失っており、自分の過去に何があったのかを思い出せない。そして出会った仲間たちと交流するうちに、かつての記憶を取り戻していくのである。

    キャラクターも濃い。ホワイトは暗殺者なのにオタクでもありディープすぎるジョークを好むし、同時にウブで女性陣にからかわれている。仲間も個性豊かで、セクシーだが危険すぎる少女ネオン・バイオレット、間が抜けているが底抜けに明るいネオン・イエローなど、過去が気になる人物ばかりだ。

    ステージを何度かプレイし評価がそれなりになると、最高評価を目指すためのヒントが出現する。ヒントはルートの提示という形で行われるのだが、それさえ知ればあとはプレイで実現させるだけであり、つい挑戦したくなる要素になっているのだ。

    このほかにも、ステージのひとつひとつが短い、リトライが1ボタンで済むなど非常にプレイしやすい作りになっている。アクションゲームはプレイヤーがとても集中するため疲労が溜まりやすく、ほどよい短さとテンポの良さが非常に重要だ。

    とはいえ『Neon White』も完全無欠というわけではなく、終盤は長すぎるステージが出てきたり、そもそもステージ数が多すぎるきらいもある。それでもスピードラン系アクションにおいてここまでプレイヤーの動線を作ったのは見事だろう。

    その動線の微調整も重要だ。たとえばストーリーがおもしろすぎるとアクションが邪魔になり、逆にストーリーがつまらなすぎるとアクションの邪魔になりうる。尺の長さ、引きの強さなどの調整も重要で、そのあたりもかなりのレベルで仕上げてきている。本作を参考にすればよりおもしろくなるほかのゲームもいろいろと思いつくほど、『Neon White』は立派なのだ。

    古典の再解釈で成功したゲームたち

    もともとタイムを競うゲームはたくさん存在する。パルクールやスピードラン系のゲームはもちろん、「マリオカート」のようなレーシングゲームもそうだといえるし、あるいは「ソニック」シリーズもそうだろう。RTA(リアルタイムアタック)もまたクリアタイムを競う遊びと言えよう。

    とはいえ、それらでタイムを競うのはどうしてもニッチな趣味だ。『Neon White』はその古典的ながらも人を選びがちなスピードラン、あるいはタイムアタックという遊びをうまく再解釈したがゆえに高い評価を得ているのである。

    そして、こういった過去の作品のおもしろさをうまく再解釈したゲームというのはほかにも存在する。

    『師父―Sifu―』(2022)

    たとえば『師父―Sifu―』。本作はベルトスクロールアクションというアーケードの古典的なジャンルを源流とした作品だ。「死ぬと年齢を重ねる」という独特かつコンティニューをうまく再解釈したゲームシステムを発明しており、それにより困難を乗り越えるおもしろさを体験しやすくなっている。

    『Celeste』(2018)

    あるいは『Celeste』。本作は死にまくるタイプのアクションゲームだが、ひとつひとつのステージは短くリトライは容易。かつ、アクションにおいてプレイヤーの動きを補助する隠れたシステムもあり、独特のストーリーでプレイヤーを引っ張る仕組みも存在する。

    これらのゲームは、古典的な「難関を乗り越えて遊ぶ行為」といえる。それはどうしてもニッチであり、そのまま提供すれば楽しめるのは一部の人たちだけだろう。しかし、うまく再解釈することによって現代風になり、そのおもしろさをより多くの人が体感できるようになった。

    古典は古くから存在するだけあって、それ相応の魅力が存在する。しかし時代の移り変わりによって解釈が難しくなるし、場合によってはマニアックになりすぎる。ゆえに古典の輝きを磨き直した作品は、間口が広くなると同時に先人が過去から積み上げてきたおもしろさも会得できる。

    傑作と呼ばれるゲームにはいろいろな種類が存在するものの、古典の可能性を引き出すというものが傑作の条件のひとつになるのではないか。『Neon White』を遊ぶと、そんなことを思わされるのであった。


    渡邉卓也(@SSSSSDM)はフリーランスのゲームライター。『Neon White』で好きな武器はショットガン。

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