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    MMORPGのオフライン化の難しさを思い知る『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オフライン』レビュー

    ドラクエ好きとして、僕には長い間、後ろめたい気持ちがあった。「VI」と「VII」はゲームの後半で詰んでおりクリアこそしていないが、少なくともナンバリングタイトルはすべて真剣に向き合ってきたつもりだ。ところが、「X」だけがそうではなかった。オンラインゲームが苦手な僕は、どうしてもMMORPGとしてのドラクエを受け入れることができなかったのだ。2度ほどトライはしているが、粘っても20時間ほどで続ける気がしなくなった。僕がオンラインゲームを苦手としている理由については「非マルチプレイゲーマーの心理」という記事を書いているので詳しく読んでほしいが、まずはこのレビューがそういう人によって書かれていることを理解してほしい。だが、実は『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オフライン』(以下、Xオフライン)に興味を持った人の多くが、同じタイプなのではないだろうか。

    「Xオフライン」が発表された昨年5月は「これで僕もついに『X』ができる!」と喜んだ。だが、そのときにちゃんと考えていなかったのは、オンラインゲームとしてデザインされた作品をオフライン化することが如何に難しいのか、ということだ。少なくとも、スクウェア・エニックスにそれなりの考えがあるものと信じていた。

    妙に懐かしいが統一性に欠けるビジュアル

    発売前にトレーラーや紹介動画を見て、最初から不安に思った部分があったとすればビジュアル面だ。「Xオフライン」は「Xオンライン」と違ったビジュアルスタイルを採用しており、デフォルメされた二頭身キャラクターが粗いポリゴンで作られた世界を冒険している。

    スーパーファミコン時代のドット絵を現代向けにアレンジしたビジュアルはよく見かけるが、「Xオフライン」はどちらかといえば初代PlayStationを想起させるような表現形式を土台にしていると言えそうだ。個人的にあまり戻りたい時代ではないが、それでも粗いポリゴンが大画面いっぱいに広がるのは妙に懐かしい光景といえる。シリーズでは「IX」や「XI」の3DS版に近いと言えるかもしれないが、携帯ゲーム機では粗いテクスチャがそこまで目立たない。「Xオフライン」はNintendo Switchでプレイしたが、携帯モードとテレビモードとではずいぶん違った印象を抱かせるビジュアルだ。

    好みかどうかはさておき、ひとつのビジュアルスタイルとして許容できないほどのものではない。問題は、作中を通してビジュアル表現に統一性がないことだ。冒頭のカットシーンが豪華なシネマティックになっているのはいいとして、イベントの多くは「Xオンライン」のビジュアルを採用している。同じイベント内ですら、セリフの途中でビジュアルやキャラクターの頭身が目まぐるしく変わる。ところが、キャラクリエイトした主人公だけは最後まで二頭身でしか登場しない。ちびキャラの主人公に等身大のキャラクターが語りかけるような場面は違和感を覚えた。統一性がないだけでなく、使い分けの狙いもはっきりせず、「そもそもアート面にビジョンはあっただろうか?」と疑いたくなってしまった。

    パーティとフリーシナリオによるミスマッチ

    ゲームプレイやストーリーテリングの流れ自体は、オーソドックスなドラクエのシステムを採用している。だが、オンラインゲームを改変したせいか、冒険の流れは「オーソドックスなドラクエ」を楽しむのに最適なものではない。最大の問題は「パーティメンバー」と「フリーシナリオ」、それから「主人公キャラクターのカスタマイズ性」のミスマッチだろう。

    オンラインゲームであれば他のプレイヤーと一緒に冒険するが、本作はそうではない。そこで「Xオンライン」の複数の人気キャラクターがパーティに加わる流れになっている。「X」ファンにとってはうれしいはずだが、問題はゲームの序盤で「ゲスト」として加入してくることだ。「ゲスト」としてパーティに加わったメンバーには指示ができず、勝手に戦ってくれる。僕のように主人公キャラクターを「戦士」にした場合、ひたすら「攻撃」を選ぶだけになるわけだが、僧侶を選んだとしても、序盤でやることが限定されることは変わらないはずだ。

    フリーシナリオでは「キーエンブレム」を集めるクエストがメインだ。キーエンブレム入手と合わせて仲間が「ゲスト」ではなくなり、指示できるようになる。だが、キーエンブレムを入手してもパーティメンバーが増えない場合もあり、どれがそうなのかプレイヤーにはわからない。進め方次第では10時近くプレイしても指示できる仲間がほとんどいない可能性もあるわけだ。コマンドバトルRPGの最序盤で何も考えずに同じ行動を繰り返せば勝てるのはよくあることだが、「Xオフライン」の場合はそれがかなり長く続く可能性が出てきてしまう。

    指示できる仲間が3、4人揃った段階でいよいよバトルは楽しくなってくる。だが、キャラクターがどの時点で仲間になったのかがプレイヤーによって違うためか、イベント中の会話にはほとんど絡んでこない。仲間に話すコマンドは存在するが、「状況」や「場所」について感想を話してくれるだけで、他の仲間との関係性を掘り下げるような会話は皆無。結果、通常のドラクエのナンバリングタイトルのようなキャラクター同士の成長は見られない。もちろん「III」のように仲間のキャラクター性を前提にしていないタイトルもあるが、その場合は「育てる」ために存在しており、仲間の職業を自分で選んだり変えたりして、最強のパーティを作っていく楽しさが用意されている。「Xオフライン」の場合、仲間キャラクターは職業が固定しているのにあまりストーリーやお互いに絡んでこないという不思議な立ち位置だ。元々「Xオンライン」で仲間キャラクターではなかっただけあって、存在意義が曖昧なのだ。

    メインストーリーやキーエンブレム集めについて

    ストーリーは「Xオンライン ver2」まで描いている。ネタバレしない範囲で物語の構造を説明しよう。ゲームの最序盤を終えると「キーエンブレム集め」が始まり、一定数集めると中盤のメインイベントが入り、その後はまたキーエンブレム集めに戻り、全部集めるとラストダンジョンへ向かう。序盤・中盤のイベント・ラストダンジョン以外は「キーエンブレム集め」ということになるわけだ。思えば、ポケモンの「ジムバッジ集め→ポケモンリーグ」に近い流れだ。

    前半のキーエンブレム集めを終えた頃は仲間も増え、バトルがついに「いつものドラクエの面白さ」を獲得していた。HPとMPの管理をしつつ、仲間に様々なバフをかけ、敵が不利になる呪文を唱え、強烈な攻撃を繰り出してぎりぎりボスを倒すゲームプレイはいつの時代も楽しい。その楽しさに至るまで時間がかかりすぎたとはいえ、「やはりドラクエはいい」という感想を抱いたことは間違いない。

    前半のキーエンブレム集めが終わると、中盤のメインイベントではまた違った冒険の流れになった。メインストーリーがいよいよ盛り上がりを見せ、仲間のセリフも用意されていた。

    「このゲーム、いよいよ面白くなってきたじゃないか」と心のなかで盛り上がった。

    ところが、そこで主人公は仲間と逸れて単独行動することになる。物語の展開によって、やっと作り上げられた「バトルの楽しさ」が一時的にまた失われてしまうわけだ。仲間と逸れているメインイベントでも指示できない「ゲスト」が加わり、またひたすら「攻撃」を繰り返す時間になった。ダンジョンの強敵やボスとの戦闘でさえ、傍観者のような気持ちで見守っている自分がいた。

    この問題は、仲間の加入と離脱と関係ないMMORPGのストーリーを下敷きにしていることに起因しているだろう。とはいえ、「ゲスト」に指示を与えられるようにすれば簡単に解決できたような気がしないでもない。

     

    中盤のメインイベントは、「Xオフライン」のストーリーが最も盛り上がるポイントだと感じた。「Xオフライン」のメインストーリーは短く、ゲームの8割以上がキーエンブレム集めだ。

    キーエンブレム集めは「VII」の石板集めと似て小さな物語たちの短編集のような構成だ。複数の地域を列車で行き来し、そこで起きている問題を解決するとキーエンブレムを授けられる。面白いアイデアやユニークなキャラクターも登場しないわけではないが、それらを膨らませるには時間が足りず、安易な裏切りやどんでん返しが短時間で盛り上がりを作るために多用されていた印象だ。

    キーエンブレム入手までのパターンが単調であることも、冒険の流れを冗長に感じさせた。後半のキーエンブレムはすべて城を訪れるところから始まり、「ゲスト」が加入して2体のボスと戦い、城に戻って報告すると手に入る。ロードが長いことも相まって、ひたすら城と洞窟を行き来するのが面倒に思えるようになった。

    ロードの長さ以外にもバトルやイベント中のカクつきが気になった。Nintendo Switch版以外は試せていないが、ネット上では他バージョンについても同様の問題が報告されている。

    ボスデザインは全体を通して秀逸で、後半はボスとのバトルだけを楽しみにプレイしていたと言っても過言ではない。不幸中の幸いか、フィールドやダンジョンの敵はほとんど無視できる。本作はモンスターを可視化したシンボルエンカウントを採用しているのだが、ダッシュボタンを押していれば捕まることはまずない。ストレスフリーに冒険を楽しめるのはうれしいが、逆に言えばフィールドやダンジョンの存在意義も薄い。自由に逃げられるとなれば、たくさんの経験値が手に入る強敵とだけ戦えばいい。フィールドやダンジョンは面白い仕掛けがあるわけでもないし、このビジュアルスタイルでは視覚的な変化も地味だ。一切バトルせずにボスまで進むことが容易にできるのは便利だが、冒険にわくわくするようなデザインではない。シンボルエンカウントの採用は歓迎だが、フィールドやダンジョンの構造も合わせて進化しなけれならないことがわかる。

    オフライン化の難しさ

    「Xオンライン」をベースにした作品を楽しい1人プレイ専用RPGとして成立させるためか、「XI」から借りた要素も多い。同作は確かに素晴らしい作品で、僕も当時のレビューで9.4点をつけている。メインクエストとサイドクエストについて教えてくれるキャラクターは特定の色の吹き出しになっているし、全滅するとどこからやりなおすかを選択できる。わかりやすくストレスフリーな冒険を可能にする「XI」のシステムはありがたい。

    一方で、「XI」から借りてきただけではうまく機能しないものも見受けられる。例えば武器や装備品を自分で作る「ふしぎな鍛冶」だ。「Xオフライン」はフリーシナリオを採用しているので、どの街をどの順番で訪れるかがわからない。「次の街でより強い武器や装備品が買える」というドラクエの当たり前が通用しないわけだ。

    そこで「Xオフライン」は街ごとに買える武器・装備品の差別化をあきらめ、「ふしぎな鍛冶」を前提としたデザインになっている。しかし、「ふしぎな鍛冶」はレシピを手に入れないと強い武器や装備品が作れないという、本来はやり込み要素のようなシステムだ。本棚を調べたりサイドクエストをこなしたりカジノをやり込んだりといったサイドアクティビティに興じなければ、レシピはほとんど増えない。お店の武器・装備品が充実した「XI」では問題にならなかったが、「Xオフライン」ではストーリーを中心に遊びたいユーザーが強い武器や装備品をあきらめないといけないようなデザインになっている。

    サイドクエストも「XI」と似たシステムになっているが、これもあくまで任意の要素として位置づけられた同作と違って、「Xオフライン」では多くの施設やシステムをアンロックする役割を担っている。銀行や酒場といった一般的な施設でさえ、サブクエストをこなさないと利用できないことが多い。持てるアイテムの数を増やすにしてもサイドクエストが必須になるし、メダル王にまでサイドクエストを課せられたときはさすがにうんざりして「だったら小さなメダルの数は自分で数える!」と怒鳴りたくなった。

    サブクエストをこなさないと一般的な施設やシステムが利用できないのはそもそもよくないが、問題の根本はこうしたサイドクエストのほとんどが特定のモンスターが落とすアイテムを入手するような退屈なものになっていることだ。

    「XI」のシステムでうまく引き継がれていると思ったのはスキルパネルだ。主人公は自由に職業を変えられるので最初からカスタマイズの余地があるが、他の仲間キャラクターはスキルパネルを通してどのように育てるか少し決められる。主人公は転職システムでフルカスタマイズ出来るが、仲間はスキルパネルだけ。仲間=他人というオンラインゲームのルーツを適度に感じさせるバランスが心地良く感じられた。

    それでも全体としてはソロRPGとして楽しめる工夫がやはり足りない。「XI」の要素を借りるのはいいとして、独自のアイディアが不足している。郵便局や住宅地に陶芸ギルドといったオンライン施設がほとんど(あるいはまったく)役割もないまま再現されているのも気になる。

    「Xオフライン」はボイスが入っており、クオリティーも高い。僕はドラクエのセリフは読んだ方がしっくりくるタイプなので試した後はオフにしたが、趣味に応じたプレイスタイルができるのでこれは歓迎すべき要素だろう。故すぎやまこういちの音楽は「Xオフライン」でも素晴らしく、地域に応じたフィールドBGMが用意された豪華な作りだ。サウンド回りは全体的に申し分ない。

    一方で、セリフから感じられる「堀井節」は過去作ほどではないと感じた。ふわっとした意見で、その理由を明白に指摘できない以上は触れるべきかどうか迷った。だが、少なくともセンスの良さや楽しげな雰囲気や孤独感に包まれるテキストが他のナンバリングタイトルに劣ると感じたことは否定できない。

    メインストーリーのクリアまではちょうど30時間かかった。教養としてついに「X」を最後まで遊べたことはうれしい。だが、MMORPGのオフライン化としては工夫も調整も不足しており、優れた要素同士のミスマッチによって多くの問題を抱えるゲームとなってしまっている。

    『ドラゴンクエストX オフライン』はドラクエのバトルやストーリーテリングの基本こそ抑えている。だが、元々はオンラインゲームのために設計された冒険であるためか、その楽しさは十分に発揮されておらず、多くの問題が目立つ。ビジュアル表現は地味で統一性に欠け、ロードやカクつきも気になり、独自のアイディアが不足している。遊んでいて苦ではないが、作り手のビジョンが伝わってこない。

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